「寿退社」という言葉が、もう古びている
結婚が決まると、周りからこんな言葉が飛んでくることがあります。「これで仕事も一区切りだね」。悪気はないのでしょう。でも、そのひと言に少しだけ引っかかる。続けたい気持ちもあるし、辞めるのが当然という空気にも違和感がある。そんなもやもやを抱える人は少なくありません。
結論をぼかさずに言えば、「結婚したら退職」という前提は、もう社会の標準ではなくなっています。データを見ても、人々の意識を見ても、続ける側が多数派です。ただし、続けると決めたなら、なんとなく働き続けるだけでは数年後に行き詰まります。共働きを選ぶことと、共働きを設計することは別物だからです。
共働きはもう例外ではない。数字が示す多数派
まず事実から。総務省の労働力調査をもとにJILPTが整理した2024年のデータでは、共働き世帯は1,300万世帯、専業主婦世帯は508万世帯でした。共働きは専業主婦世帯の約2.6倍。夫婦のいる世帯に占める共働きの割合は、およそ7割にのぼります。
時代をさかのぼると、構図がまるで違います。1980年は専業主婦世帯が1,114万に対し、共働きは614万で、専業主婦のほうが多数派でした。それが1997年に逆転し、以降は差が開き続けています。2024年には「夫も妻も週35時間以上」というフルタイム同士の共働きが496万世帯まで増えました。片働きを前提にした人生設計のほうが、いまや例外的になりつつあります。
意識の面でも変化は明確です。内閣府の世論調査(令和6年9月)では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方に反対する人が64.8%。30年ほど前は3割程度だったことを思えば、社会の常識そのものが入れ替わったと言っていい数字です。「結婚したら退職」が古びて見えるのは、気のせいではありません。

「辞める」という選択に隠れた本当のコスト
それでも辞める選択はあります。問題は、辞めることのコストが見えにくいことです。目の前の家事や育児の負担を考えると「一度離れたほうが楽」と感じる。けれど、失うのは目先の給料だけではありません。
たとえば年収400万円の人が10年間離職すると、単純計算でも4,000万円の収入が消えます。これに昇給や賞与、退職金、そして将来の年金への影響が積み重なります。さらに見落とされがちなのが、ブランクの後の再就職で、同じ条件には戻りにくいという現実です。一度キャリアの線が切れると、復帰時に下のポジションから、ということが起こります。
もちろん、お金がすべてではありません。ただ、辞めることのデメリットを過小評価したまま決めてしまうと、後で「あのとき続けていれば」と思うことになりがちです。出産を理由に収入を落とさない働き方には選択肢があります。出産後も年収を落とさない働き方に目を通しておくと、「辞める」以外の道が具体的に見えてきます。
続ける前提でも、設計しないと後で詰まる
続けると決めた。それは良いスタートですが、ゴールではありません。むしろここからが本番です。なんとなく働き続けると、出産や育児のタイミングで、想定外の壁にぶつかります。
よくあるのが、復帰後に「思っていたのと違う仕事」を任されるパターンです。時短だからと責任の軽い業務に回され、気づけば成長が止まっている。いわゆるマミートラックです。これは本人の能力の問題ではなく、設計を後回しにした結果として起こります。復帰後にどんな役割を担いたいか、どこまでの働き方なら無理がないかを、産休前に上司やパートナーと言葉にしておくだけで、戻り方がまるで変わります。
設計には、長期の視点も要ります。子育てが一番大変な数年だけを見て働き方を縮めすぎると、手が離れたときに戻る場所がなくなる。逆に、その数年を乗り切る仕組みさえ作れれば、その後はぐっと働きやすくなります。長い目でキャリアを描くなら、結婚・出産でキャリアを諦めない働き方の考え方が土台になります。役職や年収を伸ばす方向まで視野に入れるなら、女性管理職を目指す人がやるべきことも合わせて読んでおくと、設計の解像度が上がります。
夫婦は「分担」ではなく「チーム」で考える
共働きでつまずく多くのケースは、家事や育児の負担が一方に偏ることから始まります。「分担」という言葉自体が、どこか「本来は誰かの役割を分けてあげる」というニュアンスを残しています。そうではなく、二人で一つのチームを運営している、と捉え直すと話が早い。
具体的には、家事や育児を「気づいた人がやる」運用にしないことです。誰が何を担うかを最初に決め、定期的に見直す。家電やアウトソースに頼れるところは堂々と頼る。そして、どちらのキャリアを優先する局面なのかを、その時々で話し合う。ずっと妻が合わせる、ではなく、転勤や昇進のタイミングで主役を交代する発想が、長続きする共働きの共通点です。
お金の話を避けないことも大切です。世帯収入をどう配分し、それぞれが自由に使えるお金をどう確保するか。家計を一つのどんぶりにしてしまうと、稼いでいるほうの発言力が強くなりがちです。二人の収入を二人で設計する。これがチームとしての共働きの基本になります。年収そのものを伸ばしたいなら、女性が年収を上げやすい職種とはも判断材料になります。

自分の収入は、自分の自由でもある
「結婚したら退職」は、もう社会の前提ではありません。共働きは1,300万世帯で多数派、意識調査でも片働きを当然とする声は少数になりました。古い常識に合わせて、自分の選択肢を狭める必要はどこにもありません。
とはいえ、続けると決めただけでは足りません。辞めることのコストを正しく見積もり、復帰後の役割を先に言葉にし、夫婦をチームとして運営する。この設計があるかないかで、数年後の景色は大きく変わります。
自分で稼ぐということは、暮らしを支えるだけでなく、自分の選択肢を自分で持つということです。続けるか、休むか、変えるか。その判断を誰かに委ねず、自分の手に残しておく。共働き時代のキャリア設計は、そのための準備にほかなりません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 今でも「結婚したら退職」する人は多いのですか?
少数派です。2024年の共働き世帯は1,300万で、専業主婦世帯508万の約2.6倍。夫婦のいる世帯の約7割が共働きです。意識調査でも「夫は外、妻は家庭」に反対する人が64.8%にのぼり、辞めるのが当然という空気は薄れています。
Q2. 結婚や出産で一度辞めると、復帰は難しいですか?
不可能ではありませんが、ブランク後は同じ条件に戻りにくいのが現実です。年収やポジションが下がることもあります。辞める前に、時短や部署異動など「続けながら負担を減らす」選択肢を検討する価値は大きいです。
Q3. 仕事を辞めると、収入以外に何を失いますか?
給料に加えて、昇給や賞与、退職金、将来の年金が目減りします。さらにキャリアの連続性が切れることで、復帰時の選択肢が狭まります。長期で見ると、見た目の数字以上の損失になりやすい点に注意が必要です。
Q4. 共働きを長く続けるコツはありますか?
家事育児を「気づいた人がやる」運用にせず、役割を決めて定期的に見直すことです。どちらのキャリアを優先する局面かを話し合い、状況に応じて主役を交代する。夫婦をチームとして運営する発想が、無理なく続ける鍵になります。
Q5. 復帰後にやりがいのない仕事に回されないか不安です。
産休・育休前に、復帰後どんな役割を担いたいかを上司と共有しておくと変わります。時短だからと責任を外されるマミートラックは、設計を後回しにすると起こりがちです。早めに希望を言葉にしておくことが予防になります。