「制度はあるのに、誰も取っていない」を入社前に見抜く
求人票には「男性育休取得実績あり」と書いてある。面接でも「うちは両立支援に力を入れています」と言われた。それなのに、いざ子どもが生まれてみたら、上司が露骨に嫌な顔をした。そんな話は、いまも珍しくありません。
制度の有無と、その制度を本当に使えるかは別の問題です。会社案内に並ぶ文言は、最低限のスタートラインに過ぎません。大事なのは、その職場で実際に男性が育休を取り、戻ってきて、また普通に働けているかどうか。ここを見誤ると、せっかく転職しても同じ我慢を繰り返すことになります。
幸い、いまは外から確かめる手がかりが増えました。法改正で取得率を公表する企業が広がり、面接でも踏み込んで聞きやすい空気になっています。会社選びの段階で、見極めの質問を用意しておく。それだけで入社後の景色は大きく変わります。
男性育休はここまで変わった、最新の数字
まず、いまどのあたりに立っているのかを数字で押さえておきます。
厚生労働省の「令和6年度雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得率は40.5%でした。前回調査の30.1%から10.4ポイントの上昇で、初めて4割台に届いています。同じ調査の女性は86.6%ですから差はまだ大きいものの、伸び方は急です。過去をたどると、2020年度は12.65%、2022年度でも17.13%。ここ数年で一気に景色が変わったことがわかります。
中身も変化しました。育休を取った男性のうち60.6%が「産後パパ育休」、正式には出生時育児休業を利用しています。これは子の出生後8週間以内に最大4週間取れる制度で、2022年10月に始まったばかり。短期間でも取りやすい仕組みが整ったことが、全体の底上げにつながっています。
ただし、この40.5%はあくまで全国平均です。会社によっては80%を超えるところもあれば、限りなくゼロに近いところもある。あなたが受ける会社がどちら寄りなのかは、平均値からは読み取れません。だからこそ、個別に確かめる必要があります。
「取れる会社」と「あるだけの会社」を分けるもの
制度が機能している会社と、看板だけの会社。両者を分けているのは、規定の有無ではありません。
ひとつは、取得が「特別なこと」になっていないかどうかです。直近1〜2年で複数の男性が当たり前に取り、しかも管理職や評価される立場の人が含まれている。こうした会社では、後に続く人がためらわずに済みます。逆に「過去に1人だけ取った人がいる」程度だと、その1人が相当な覚悟で道を切り開いた可能性が高い。実績の数字より、誰がどんな取り方をしたかのほうが本質を映します。
もうひとつは、抜けた間の仕事を回す仕組みがあるか。属人的な業務を一人で抱える職場では、本人がどれだけ取りたくても周囲に気兼ねしてしまいます。引き継ぎの文化やチームでの分担が根づいているかどうかは、育休に限らず働きやすさそのものに直結します。女性活躍をうたう会社の実態を見るときと同じで、表向きの言葉だけでなく口コミも合わせて確かめたいところです。気になる会社があれば女性活躍を掲げる会社の口コミはどこまで本当かも参考になります。

面接でそのまま使える、踏み込んだ質問
聞き方しだいで、得られる情報の質が変わります。「育休は取れますか」では「制度はあります」と返ってくるだけ。事実を引き出す質問に作り替えましょう。
たとえば「直近で男性が育休を取得された方はいらっしゃいますか。差し支えなければ、どのくらいの期間でしたか」。実例の有無と期間が一度に確かめられます。さらに「復帰された方は、元のポジションや役割で戻られていますか」と続ければ、取った後のキャリアへの影響まで見えてきます。育休を取ると評価が止まる、戻る場所がない、といった会社はこの質問で言葉に詰まりがちです。
業務面では「育休中の業務はどのように分担されていますか」と尋ねると、仕組みの有無がわかります。聞くタイミングを迷うなら、選考の後半やカジュアル面談、内定後の面談が向いています。「長く働きたいので、家庭との両立の体制を具体的に知っておきたい」と前置きすれば、マイナスに受け取られることはまずありません。むしろ、定着を真剣に考えている人だと伝わります。
公表データの探し方(300人超の公表義務)
面接の前に、外から数字を確かめる方法もあります。
育児・介護休業法の改正で、2025年4月から男性の育児休業等取得率の公表義務が、従業員1,000人超の企業に加えて300人超の企業にも広がりました。対象企業は、前事業年度の「男性の育児休業等取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」のいずれかを、年1回インターネットなどで公表する義務があります。つまり中堅規模の会社でも、探せば数字が出てくる可能性が高くなったということです。
公表先は自社サイトのほか、厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」というサイトが推奨されています。気になる会社名で検索したり、採用ページの「数字で見る当社」「サステナビリティ」といったコーナーを見たりすると、取得率や平均取得日数が載っていることがあります。注意したいのは取得「率」だけで判断しないこと。率が高くても全員が数日だけ、というケースもあるので、平均取得日数とセットで見ると実態に近づけます。

直接聞きにくいときの、遠回りな確かめ方
立場上、面接で踏み込んで聞きづらいこともあります。そんなときは、間接的なサインを集めます。
社員クチコミサイトで「育休」「両立」といった言葉を検索すると、現場の温度感が見えてきます。トップの発信よりも、現役・退職者の生の声のほうが正直です。会社が「くるみん」「プラチナくるみん」といった、子育て支援に積極的な企業への国の認定を受けているかも目安になります。認定には男性の育休取得などの基準があるため、ひとつの裏づけになります。
加えて、面接で会った社員の様子も情報です。残業の話しぶり、有給の取りやすさ、子育て中の社員への言及。こうした端々に、その会社が家庭の事情をどう扱っているかがにじみます。育休が取りやすい職場は、たいてい休暇全般が取りやすい。産休・育休の取りやすさそのものを軸に会社を探したい人は産休・育休がとりやすい会社の特徴と探し方も合わせて読んでおくと、見るべきポイントが整理できます。
入社後に後悔しないために
男性育休は、もう一部の先進企業だけのものではなくなりました。取得率は4割を超え、短期で取る選択肢も増えています。それでも、平均が上がったことと、あなたの入る職場で取れることは別の話です。
確かめるべきは、制度の有無ではなく運用の実態。直近の取得者がいるか、戻った後のキャリアは守られているか、抜けた穴を回す仕組みがあるか。この三つを面接と公表データの両面から押さえておけば、看板倒れの会社をかなりの確率で避けられます。
子どもとの時間は、後から取り戻せません。会社を選ぶいまの数十分の質問が、数年先の家庭の時間を左右します。遠慮せずに聞いてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 男性育休の取得率はいま何%くらいですか?
厚生労働省の令和6年度雇用均等基本調査では40.5%でした。前回の30.1%から10.4ポイント上がり、初めて4割を超えています。ただしこれは全国平均で、会社ごとの差は非常に大きいため、個別に確認することが大切です。
Q2. 面接で育休のことを聞くと不利になりませんか?
聞き方しだいです。「長く働きたいので両立の体制を知っておきたい」と伝えれば、定着を真剣に考える人として前向きに受け取られます。制度の有無ではなく、直近の取得者や復帰後の働き方といった事実を尋ねるのが効果的です。
Q3. 産後パパ育休とは何ですか?
2022年10月に始まった出生時育児休業のことで、子の出生後8週間以内に最大4週間取れる制度です。通常の育休とは別に取得でき、分割もできます。令和6年度は育休を取った男性の60.6%がこれを利用しています。
Q4. 会社の育休取得率はどこで調べられますか?
2025年4月から従業員300人超の企業は男性の育休取得率の公表が義務化されました。自社サイトや、厚生労働省の「両立支援のひろば」で確認できる場合があります。取得率だけでなく平均取得日数も合わせて見ると実態に近づけます。
Q5. 取得率が高ければ取りやすい会社と考えてよいですか?
ひとつの目安にはなりますが、それだけでは不十分です。率が高くても全員が数日だけ、ということもあります。平均取得日数、直近の取得者の例、復帰後のポジションが守られているかまで確かめると、看板倒れを避けられます。